札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)2472号 判決 1984年2月27日
原告
株式会社中心街ビル
右代表者
小田喜代司
右訴訟代理人
荒谷一衛
鷹野正義
被告
河端雄之介
右訴訟代理人
藤井正章
二宮嘉計
主文
一 札幌地方裁判所昭和四五年(ワ)第七〇一号共有物分割請求事件の和解調書の和解条項第二の二及び三の執行力の排除を求める原告の請求を棄却する。
二 原告の被告に対する前項の和解調書の和解条項第二の二及び三に係る金二八一万八〇八〇円の債務が存在しないことの確認を求める原告の請求を却下する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
四 本件に付随する昭和五七年(モ)第二八八二号事件につき当裁判所が同年九月一〇日にした強制執行停止決定中、原告及び被告に関する部分を取り消す。
五 この判決は、前項に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一<省略>
二本件請求異議の訴えについて
1 <証拠>によれば、次の事実が認められる。
原告は、被告に対し、札幌地方裁判所昭和四八年(ワ)第一一八四号請求異議本訴事件において、本件和解調書の執行力の排除を求め、請求に関する異議事由として、原告及び小田と忠吉ら共有者との間で本訴請求原因第二項6記載の内容の契約が成立したこと、忠吉ら共有者がその契約に違反して旧館南側部分の増築工事及び障壁の設置をしなかつたこと、そのため、原告はテナントが入居しなかつたこと及び不要となつたエスカレーター移転工事などにより数億円に及ぶ損害を被つたこと、原告は、被告に対する右の契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて本件和解調書の和解条項第二の二及び三記載の債務とその対当額で相殺する旨主張したところ、札幌地方裁判所は、昭和五五年一月二八日、原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。原告は、右の判決に対して控訴したが(札幌高等裁判所同年(ネ)第三二号事件)、札幌高等裁判所は、昭和五七年七月一三日、原告の控訴を棄却する旨の判決を言い渡し、右の判決は同年八月一七日に確定した。
2 請求異議の訴えは、債務名義に表示された特定の請求権と実体的権利関係に不一致が生じたことにより、債務名義上の請求に関する実体法上の異議事由によつて債務名義の執行力を排除することを目的とする形成の訴えであり、訴訟法上の形成権としての異議権を訴訟物とするものであるが、実体法上の異議事由は複数存在し得る。
そこで、この異議事由と訴訟物との関係が問題となるが、請求異議訴訟の訴訟物は、訴訟法上の包括的な一個の異議権であり、各種の異議事由はすべて異議権の発生を理由あらしめる事実にすぎないものと解するのが相当である。
3 そうすると、前認定のとおり、原告及び被告間には本件和解調書の執行力の排除を求める原告の請求を棄却した前訴の確定判決が存するところ、前訴において主張された異議事由たる相殺と本訴において主張している異議事由たる相殺とは、相殺に供する自働債権の発生原因事実を異にするものであるが、原告が自認するように、本訴における相殺の自働債権である損害賠償債権は、前訴の口頭弁論終結前に発生していたのであつて、本件和解調書記載の債務とは前訴の口頭弁論終結時に既に相殺適状にあつたのであるから、本件請求異議の訴えは、結局、前訴の口頭弁論終結前に存在した事由に基づいて再び本件和解調書の執行力の排除を求めることに帰する。
したがつて、本件請求異議の訴えは、前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないものというべきである。
三本件債務不存在確認の訴えについて
原告は、原告の被告に対する本件和解調書の和解条項第二の二及び三に係る二八一万八〇八〇円の債務が存在しないことの確認を求める。しかし、訴訟上の和解は確定判決と同一の効力を有するものであることに照らして考えると、訴訟上の和解の成立によつて確定した給付義務の不存在確認を請求することは、確定判決に表示された給付義務の不存在確認を請求するのと同様、訴えの利益を欠くものというべきである。すなわち、原告の主張は、本件和解が有効に成立したことを前提にしてその成立後に生じた実体法上の事由(相殺)に基づいて和解調書記載の債務が消滅したというにあるが、右の債務の不存在確認を求める原告の窮極的な利益は、本件和解調書に基づく強制執行を受けるおそれを排除することにあるものと考えられるところ、このような原告の利益を保証するために、現行法上請求異議の訴えという手段が用意されているのであるから、債務不存在確認の訴えという手段を別に認めなければならない実益は存しないものというべきである。
四以上のとおり本件和解調書の和解条項第二の二及び三の執行力の排除を求める原告の請求は理由がないので棄却し、本件和解調書の和解条項第二の二及び三に係る二八一万八〇八〇円の債務が存在しないことの確認を求める原告の要求は不適法なので却下し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、強制執行停止決定の取消しとその仮執行の宣言について民事執行法三七条一項を適用して主文のとおり判決する。
(安達敬 田中豊 内藤正之)
物件目録<省略>